つぶやき館

アクセスカウンタ

zoom RSS 金田一春彦氏の青春、・・・軍国教育、軍隊に反発して

<<   作成日時 : 2017/07/30 14:21   >>

トラックバック 0 / コメント 0

  
画像
ま、実際、わたしは旧制の浦和高校を留年しています。一年から二年に
上がれなかったのです。でも私はその留年を悔いる気持ちは別にありませ
ん。私は浦和高校に、東京の府立第六中学、今の新宿高校の四年修了で
合格し、入学しました。当時の旧制中学は五年制でしたが、四年修了時点
も受験は可能で受かれば入学できました。私は運良く、四年修了で入れた
ので高校に入ってからの一度の留年は正直全然、平気で気に留めません
でした。といって何も無条件に留年を肯定賛美しているわけではありません。

 私は入学試験をさほど苦にはしませんでした。それは偉そうに聞こえるか
もしれませんが、私自身は受験勉強がイヤではなかったのです。私は学校
を出てから軍隊に入りましたが、本当に軍隊というところがイヤなところでし
た。除隊して兵舎を出たとき、私は、軍隊が「おい、ちょっと待て」と言ってこ
ないかと、電車の停車場まで駆け出したくらいです。でもこの世には逆に
軍隊生活を懐かしむような人さえいるのですから、人それぞれの個性だと
感じます。

 私が受験生活がイヤとは思わなかったのは、中学も四年となれば、学校
でも高校受験を考えてくれて受験科目にあるような科目の授業に力を入れ
てくれました。これは器械体操とか軍事教練などより遥かに私にとって楽な
ことでした。西洋史などというものは、チャールズとかいう名前があちこちに
出てきて覚えにくいという人がいますが、私にかえてつぉれが面白かったの
です。同じ名前の王様の統計をとってみて三世には割りと偉い人が多いが
、二世には偉い人は少ないなどという結論を出しては一人で喜んでいたも
のです。学問というのは何でもやってみれば面白いものだと思います。中学
校の時、たったひとつ、つまらなくて面白くなかった科目に化学があります。
それは化学の教師がよくない先生で、ただ教科書を棒読みしているだけで
、酸素と水素が一緒になると水になると言われても、全然、面白くもなんとも
なかったのです。でもその後、高校に進学して永海とかいう化学の先生が書
いた本を読んで、本当に面白くて興味が深まりました。中学でこんな先生に
習っていたら、と思ったものです。

 私が府立六中(新宿高校)から浦和高校に進んだのは、大学は東大と決め
ていましたが、・・・・何も東大だけに行くなら無理に駒場にあった一高に入る
必要などないと割り切ったからです。一高は難易度は高くて私にはちょっと
無理というか、手が届きませんでした。浦和高校か静岡高校を考えていまし
た。実は静岡高校の方に入りたかったんですが。なんとなく景色も良さそうで
浦和よりはロマンチックなイメージでしたから・でも受験科目と見ると作文が
あったんです。私は作文はあまり得意じゃなく、それが受験科目にない浦和
高校を結局、選んだんです。

 私は今のように著述業に従事して、私の書いたものが中学や高校の教科
書に載っているんですが、その私が作文が苦手というのはやや奇異の聞こ
えるかもしれませんが、苦手だったのは本当です。作文でもテーマが「思い
出」とか「わが友」とかいうならスラスラ書けますは、「自由」とか「平和」とかな
ると、まあ戦争前ですからもっと堅いテーマが出そうですが、何か抽象的なテ
ー間で作文は苦手だったのです。

 そういえば私は今の大学入試に多く出題される文章というのも苦手でして
、中学上級ともなると阿部次郎とか高山樗牛とかという人の論説文が出てい
ましたが、さっぱりわかりませんでした。いい塩梅にその当時は国語は古文が
主であまり現代文は出されなかったんです。かくして浦和高校の文科甲類に
入学したわけです。

 ★旧制高校は楽しかった

 中学から高校に入って、楽しかったですね。中学は旧制の府立六中、今の
新宿高校ですが、その頃は軍事色が支配していて、府立六中はまた特に軍
国主義の風潮であり。なにかといえば明治神宮参拝をやらされました。中学
生にしてみるとやたら長い小石のジャラジャラした道を歩かされて、お世辞に
も荘厳ともいえない社殿の前で頭を下げさせられる。全然、感激なんてなかっ
たですね。また校庭には、日露戦争の日本海海戦の戦艦三笠にあったという
釣鐘をもらってきては鐘楼に吊るして、なにかといえば、これを打ち鳴らしても
別にいい音が出るわけでもなく、詰まらない話でした。

 それが旧制高校に入ると全寮制で、授業が始まるという前日には学校の
近くにある寄宿舎に入れられ、その夜は上級生が歓迎会を開いてくれました
が、これからして楽しかったですね。もちろん無骨,バンカラですから、例えば
「君たちのあすからの生活」というようなことを委員が壇上で説明してくれる。
その中で「八時になると学校の始業の鐘が鳴る。そかしこれは行っても行か
なくてもいいのです」、みんんあワッと歓声を上げる。中学ではどんなイヤな
授業でも休めませんでした。

 実際に始まってみると高校の教師は生徒を大人として遇してくれる点で
中学とは全然違いました。先輩がまた親切で、前年の講義ノートを譲って
くれたり、あの先生の試験の傾向はこうだ、普段は出席しなくてもいい、など
と教えてくれました。生物の講義はいい先生で楽しかったし、教室のちょうど
後ろに窓があり、ちょっと高いけど、飛び降りて外にも出られた。そこで先生
が黒板を向いているスキに書き始めのタイミングを見計らって窓によじ登り
、どんと外へ飛び降りる。大きな音がしてハっとしたものですが、馴れると
これが爽快でした。

 そんな風に授業をサボって何をやるのかといえば、まあ、寄宿舎に帰って
親しい者同士で駄弁る、図書館に行っては好きな本を読む、グラウンドに出
てスポーツをやる、いろりおでした。私は気の合う者と外に散歩に出るのが
好きでした。当時は学校のそばは、武蔵野の一角で雑木林が残ってました
。小鳥もさえずって、新緑のなか、アテもなくさまようのは気持ちよかったです
ね。

 でもサボって外に散歩に出た時、足が向いて浦和駅に。今、上野か赤羽
からの汽車が入ろうとしている。高崎行きか新潟行きです。一人が言いまし
た、「誰か駆けていってあの記者の飛び乗れるか!」、わたしは「よし、乗っ
てやる」と答えるより早く改札をつっきてその汽車に飛び乗りました。高校生
なら改札も大目に見てくれたのでしょう。でも階段を二段ずつ駆け上がるの
は結構、熟練を要します。目で汽車に乗ったわたしは車窓から手ぬぐいで
合図をしました。最高の気分でした。

 といって何も用事などないので大宮まで行って下りて引き返しただけです
。無駄の極みでしょうが、昼ころ、授業の開始時間に合わせて帰り、教室に
入りました。事情を知ってるやつからは拍手です。

 そんな具合で何かと授業をサボるものだから、試験は困っていいはずで
スが、いざ試験では監督は厳しくない、模範解答を試験中に回してくれる
義侠心に富んだ奴がいて、もっともそういう奴は出来ないので頭の良い奴
の答案を回してくれるんです。それを見て書けばいいのですから呑気なも
のでした。それでも豪傑はいて、一年生を二回、二年生を二回、三年生を
一回だけで卒業した奴がいました。私が入学したての頃、私にバイオリン
の手ほどきをしてくれた先輩でしたが、家には自分の留年を知らせていま
せんでした。

 私が留年したというのは、そういう自由な雰囲気の中だったということで
す。別段、留年する程の理由はなかった。あえて留年したと言っていい。

 それでもなぜ留年したのか?やはり自分はその時点で人より劣ってい
る、今このままで上級学年にあがっても、ますます苦しくなるのではない
か、と危惧です。どういう点が劣っていたのか、それは学力ではありませ
ん。人間として全体的に見て成長していない、と思ったからです。

 さきほど申しましたように、私はさしたる苦労もなく中学四年修了で旧制
高校に合格できた。入ってみるとほとんどは五年卒業で入ってきている。
中には浪人生もいます。

 私は阿部次郎とか土田杏村とかいう人の文章は苦手でした。倉田百三
の『愛と認識の出発』などという本が当時のベストセラーだったようで、さか
んに話題となっていましたが、私は全然知りませんでした。西田幾多郎の
『善の研究』、これが評判でその最後にある「知と愛」は絶賛されていました
が、私にはただ難解な言葉の連続で頭が痛くなるだけでした。

 折しも昭和5年で、プロレタリア文学全盛の後を受けた社会主義思想が、い
わゆる秀才連中に強い影響を与えている時代でした。河上肇の『貧乏物語』
という、およそ生硬い文体で書かれた文章を読まずには人と付き合えない
という時代で、友人の間で寮で駄弁り、散歩してはギ議論し合うという風潮
がありました。浪人したものの中には、一時、実社会にお飛び込み、働きな
がら勉強して入った者もいてそういう人は英雄視されました。

 そこへ行くと私は、豊かとはいえませんでしたが、一応は聞こえのいい
家庭の一人息子で育っています。お前なんか何も苦労なんかしていないじゃ
ないか、と言われると肯定せざるを得ない。このまま社会に出たらどうなる
かという強い不安に襲われたのです。

  

 

 

月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文
金田一春彦氏の青春、・・・軍国教育、軍隊に反発して つぶやき館/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる