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zoom RSS 葉山嘉樹、プロレタリア文学を超えた実存性、「淫売婦」の描く最下層

<<   作成日時 : 2018/07/29 11:11   >>

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私は以前、初めて葉山嘉樹の「淫売婦」を読んだとき、およそ他の日本の作家には
見出し難い実存性、生活に根ざした迫真性に驚嘆した。同じ横たわる女性を描いても
川端康成(三島由紀夫の代作)の「眠れる美女」などはまさに児戯に類する幼稚なものと
さえ感じた。時代と自身の生活環境から表向きはプロレタリア文学のアイテムに依拠した
ものにせよ、本質はプロレタリア文学を超えた実存文学であろう。さらには、やや大袈裟
にせよ、「日本のドストエフスキー」その実存世界において人間性の地獄に迫ったという
点で、・・・・・それは「カラマーゾフの兄弟」も「悪霊」も「未成年」も「罪と罰」、「白痴」もない
が長編では「海に生くる人々」においてあるいは多少でも匹敵すべき芸術的実存的迫真
性をもっている、何よりも文学の遊びではなく生活に根ざした迫真性、リアリティである。

  したがって葉山嘉樹の作品はプロレタリア文学の埒を超えたものであり、それが革命
性の欠如、思想性の希薄さと批判もされてあまり正当に評価がなされなかったという
面がある。だが葉山嘉樹の本質を考えればそれが的はずれなものであることは確かであ
ろう。

 やあhり代表作は『淫売婦』、『海に生くる人々』となろう。だが他にも佳作は数多い。実
存的ユニークさである。

 【淫売婦】「海に生くる人々」と同じく獄中で書かれた作品、短編小説。1925年、大正14年
11月の「文芸戦線」に発表された。所持作出ると同時に出世作であり、その類を見ない鮮
烈さは古今の日本作家に見られないものである。社会の下層にうごめく船員労働者として
の作者の実体験から生まれたものである、その幻想的と言うより地獄的な幻想が苛酷な
現実と結びついたものである。ドストエフスキー的と称されるものである。

 横浜の南京町あたりで男三人に誘われて80銭を取り上げられ、倉庫のような汚い建物
に連れて行かれた。そこのカビ臭い汚臭のする部屋に一人のもう瀕死の若い女が横たわ
っていた。子宮癌をわずらっていた。全裸だった。哀れなこの女を見世物にする男たちに
怒りを覚えた「私」は叩きのめしてやろうとした、女を病院に連れて行ってやろうとそたが
、女はこの男たちに助けられ、養ってもらっていると言った。「私」はその晩、もう一度、倉庫
に行って、とっておいた一円を男に渡す。浴衣をかけられて眠る女に「被搾取者階級の一
切の運命を象徴する殉教者」を見出した。

  約11年前に遭遇した夢とも現実もつかぬ「事件」を獄中の作者が「書きつけて行く」とい
う手記の体裁をもった作品である。

  「ビール箱の蓋の蔭には、二十ニ三位の若い婦人が、全身を全裸のまゝ仰向けに
横たわっていた。彼女は腐った一枚の畳の上に寝ていた。そして吐息は彼女の肩から
各々が最後の一滴であるかのように、搾り出されるのであった。

 彼女の肩の辺りから、枕の方にかけて、未だ彼女がいくらか物を食べられる時に
嘔吐したらしい汚物が、黒い血痕と共にグチャグチャ散ばっていた。髪毛がそれで
固められていた。それに彼女の(12字不明)が粘りついていた。そして頭部の方から
は酸敗した悪臭を放っていたし、肢部からは、癌腫の持つ特有の悪臭が放散されて
いた。」

 葉山嘉樹の作品にはよく、崩壊していく肉体のイメージが現れるが、「淫売婦」に描か
れたそのイメージは最も迫真性に富む。社会の最底辺でうごめく人間の命である。「私」
は女を連れ出して救おうとするが、男を殴り倒し、女を連れ出す段になって、実は彼女は
男たちと共同生活をしていたと知らされる。彼らもかっては労働者であったが、今は「搾ら
れた渣」となって売る労働力もない。「あの女は肺結核の子宮癌」、男は「よろけ」である。
近代的な資本主義的価値観からすれば役に立たぬ無用の排除されるべき人間である。
だが「生きていると何か役に立てないこともあるまい。いつの何かの折があるだろう。い
云う空頼みが俺たちを引っ張っているんだ」ということである。

 その肉体の崩壊イメージは「セメント樽の中の手紙」でも見られる。治安警察法違反で
禁錮七ヶ月の刑で葉山嘉樹は巣鴨刑務所に服役した。1925年、出獄後、妻子は行方不
明になっていた。その後、すでに移住していた木曽の水力発電所工事現場に戻った。

  確かにプロレタリア文学の要素は持っていた。労働が紡ぎだす様々な命の姿が描か
れている。だがプロレタリア文学が、その前衛が資本家とどう戦うか、民衆をどう上から
まとめ上げるかという戦術論に傾斜したのと比べ、葉山嘉樹は何よりも実存的な芸術派
であった。最下層の人間の生命の営みの地獄を見た実存的作家であった。その意味で
葉山嘉樹こそは比類なき作家と言える。

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