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zoom RSS 神近市子、疵を背負って二度人生を生きた女性

<<   作成日時 : 2018/02/22 22:05   >>

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  戦前は大杉栄との日蔭茶屋事件で二年間服役し、一旦はそこで死んだ女性、
瀬戸内寂聴さんは神近市子について「人生の負を見事にはねかえし、・・・・・・・・
後半生を輝かしく生き抜いた点」こそが神近市子の本領としている。たしかに語弊も
あるにせよ、福沢諭吉が維新を生き抜いた知識人を指して「一身にして二世を経る」
すなわち神近市子も「一身にして二生を経る」ような人生であったと評す人もいるが
、確かに言い得て妙である。

 戦後、社会党の衆議院議員として五期の実績、だが何か神近市子の世間に与える
印象は暗い。やはり陰に陽に「日蔭茶屋事件」が尾を引いている。「エロスプラス虐殺」
というその事件を題材とした映画を裁判に訴えたことも逆に印象をさらに暗くしたことは
否めない。映画自体は独自の芸術性の産物で写実性も記録性もないが、・・・・・・。心
の傷を暴かれたと感じたのだろうか。

 神近市子の業績についても世間に与える印象が不明確で、「売春防止法にヒステリ
ックになった小うるさそうな陰気な女性」という誤ったイメージが世間に流布している。
実際は他の推進者とは違った、娼婦に社会的効用さえ認める一味違った意見であった


  神近市子は1888年、明治21年、長崎県北松浦郡の医師の家に生まれた。幼くして
父や長兄を失った。一家は窮乏し、学業を中断して他家に預けられたりして、そこで女
中のしごとを手伝わされたりするという苦汁をなめた。そのつらく苦しい生活の中で、あ
る日、箱にいっぱい詰まった本を見つけ、それらを読むことで文学の世界に目覚めた。
やがて実家に戻り、復学してからも読書にふけった。島崎藤村の詩や徳富蘆花などを
愛読したという。

 活水女学校から津田塾に進み、卒業後は弘前の女学校に勤めたが、青鞜との関係
が学校に知られて免職、東京に戻ってからは東京日日新聞の記者となり、この頃、大
杉栄と知り合って恋愛関係に。大杉の妻、伊東野枝、神近市子という多面的恋愛の
はて、嫉妬に駆られた神近市子は日蔭茶屋事件で大杉を刺傷させる。1916年11月9日
未明。

 日蔭茶屋事件で一度、神近市子は死んだ。戦前に一度死んだのである。戦後の活躍
は死者が蘇ったという感さえあった。

 神近市子のご子息の鈴木れいじ氏は、神近が衆議院議員となってからあとは、自ら
筆を執ってじっくり書いた著作は殆どないと証言している。1957年の『わが青春の告白』
が議員としての立場を配慮してできるだけ日蔭茶屋事件の「事前の準備」を書かなかった
というのも頷ける話であり、その「告白」でもあまり細かいことに拘泥しなかった、という
ことなのかもしれない。

 それにしても大杉栄の『お化けを見た話』1922年9月に抗議して翌月発表の『豚に投げ
た真珠』でも日蔭茶屋事件、11月7日の記録は欠落している。

 日蔭茶屋事件が語られる時、黙して語らないほうが男らしくもあった大杉栄の発言に
、多くは依拠し、あくまで日蔭茶屋事件は大杉栄と伊藤野枝の恋愛への神近という女性
にょる夾雑物とみられる傾向がある。「神近市子文集」に寄稿した鈴木れいじ氏の「事実
の総和は真実足り得ない」という言葉の意味が重くのしかかる。それは行為は結局、一つ
しか選択できないが、その思いは決して一つではないからである。その当時は刺傷した
犯人で服役した神近市子に同情的であったかもしれないが、服役故に語り尽くされない
神近の思いも複雑にあると思われる。

 結局、戦前において神近は日蔭茶屋事件の犯人として二年の服役を終えてからは、
「人生の敗残者」とpして「世間の目の届かないところでひっそり暮らそう」と心に決め
た。国会議員となってからも故郷に錦を飾れなかった。政治犯出会った福田英子が
出獄後、故郷に帰って大歓迎されたのとはかなり異なる。背負った傷と暗さを払拭
できなかった。翻訳や執筆活動で生計を立てて、32歳で結婚、49歳で離婚とその後の
生活も必ずしも平坦ではなかった。

 戦後の神近の活躍は際立っている。婦人運動に市川房枝などと尽力し、1953年
から1969年まで衆議院議員を務めた。

 その熱情の赴くまま、振り切れてしまった戦前の神近市子、たしかに最初の述べた
瀬戸内寂聴の指摘は適切であろう。

 「人生の負を見事にはねかえした」戦後の神近市子、しかし常にどこか他の女性
運動家、政治家に比べ、ある種の暗さ、疵を背負い続けた神近市子である。


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