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zoom RSS 「鴉」横溝正史、「人間消失」のトリック、着想、構想の見事さ、だが?

<<   作成日時 : 2017/09/27 06:24   >>

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私は横溝正史(に限らないが)ミステリー小説、推理小説においてそのその設定
、構想、トリック、着想が見事でもその動機の必然化に全く失敗しているケースは多
い、と思う。「鴉」は横溝正史が「八ツ墓村」完結後に、発表した中編に近い作品だが
、収録されている角川文庫「幽霊座」の解説においてハーバード・ブーリンの『ワイル
ダー一家の失踪』という人間消失というトリックに『鴉』は挑んだものであることを述べ
ている。

 常に新たなるトリックへの挑戦は横溝正史の本質であり、あたためていたトリック
を高木彬光に「刺青殺人事件」で先を越された精神的ショックは大きく、急いで「夜
歩く」を書いたが、正史は到底満足できず、悶々の日々を送り、さらに再挑戦で「トラ
ンプ台上の首』を書きあげたということもあった。焦り、狼狽で確かにデッサンが狂っ
た『夜歩く』ではあった。

 さて、「人間消失」というトリックに取り組んだ正史がそれを注ぎ込んだ作品が「鴉」
である。導入部と結末の意外性、更に途中であきさせないために常に表現、筋に
常に読者に好まれそうな材料を与え続ける、という工夫も凝らしたものだ。

 読み終わってどう感じるだろうか、・・・・だがここでもマンネリというべき、別人物が
すり替わる、他人が見ても区別がつきにくい、という不自然な常套手段が用いられて
いること、また動機の必然化が結果的にトリックを追うあまり、およそ不完全で納得
できにくいもの、という不満は残る。あがそれはいつもの話だ。設定、着想は素晴ら
しい。

 では「人間消失」をいかに現実世界に創造し得るか、その舞台設定、ストーリー
である。ここが見事である。

  さらにいえば『鴉』短編では初の岡山物である。この時期の正史は「迷惑がかか
る」という理由で実際の地名を使うことは避けていた。この作品の舞台も、山陽本線
からローカル線、さらに軽便鉄道に乗り換え、その駅から峠越しに30分ほど歩いた
山奥での湯治場としか書かれていない。湯原?でも本格的な温泉地ではなさそう。
巨岩の積み重なる奇観、その中の台地の「こもり堂」、地蔵崩れというわれ絶壁など
の景観地形描写は「神楽太夫」の美星成羽などの備中地域に通じている。この導入
はパターン化して「首」、「悪魔の手毬唄」でも使われている。


 要約すると

 金田一耕助は岡山県警の磯川警部と連れ立って岡山県北部、辺境の温泉に来て
いた。すると3年前、代々「お彦様」を祀ってきた蓮池一族の婿養子、貞之助が「3年
後に戻る」という奇妙な書き置きを残して邸内のお堂に入ってそのまま失踪した。そ
の3年後に二日後と迫った日、磯川警部は金田一を伴って蓮池家の経営の湯治の
宿屋に宿泊。その失踪事件に興味を示した金田一耕助にその顛末を話して聞かせ
た。貞之助は本当に戻る?そうしたら、その当日蓮池家の女中のお杉が息を切らし
して町で貞之助に会ったと慌てた様子で戻ってきた、・・・・・。といって実際に会った
のは幾代出会い、その話にの受け売りであった。・・・幾代はさらに貞之助と泰輔が
地藏崩れの崖の上で激しく争っている、金田一やい磯川に伝えた。・・・・そこに見た
ものは泰輔の死体のみ、・・・・・。

 「鴉」において正史はいかに「人間消失」を興味津々の材料を込めて創作しようと
したか、である。それはまことに魅力に富んで読者を惹き付けるものである。岡山県
北野の山間の辺境、そこに彦様と称する守り神を敬い、その神様の使わしめとして
鴉というもの。その神殿を邸内に設置し、湯治の宿屋も持つ蓮池家、そこに来た婿養
子の貞之助、画素の神殿に入って失踪、「三年間われ帰らじ、みとせ経ば、再び帰ら
ん」の書き置き、事実、貞之助は姿を消した。・・・・そのトリックは、巧みである。だが
結末を読んでも、動機は釈然としない、貞之助はその時、実は泰輔に殺害されてい
た、結末で泰輔も死体で発見されたが、誰が殺った?幾代を殺そうとして自ら崖か
ら転落した、という。トリックだけを提出、創造したことは間違いない、だが最初の
人間消失自体の動機は最後までわからなかった。珠生と貞之助の相談の結果の
失踪、だがそれをしった泰輔の殺害、だが珠生は殺害されたと知らない。


 結末附近で明らかになること

 蓮池家当主の紋太夫の孫娘の珠生はもはや当主の唯一の血族であった。そこ
に来た婿養子の貞之助、だが外見は仲睦まじそうでも冴えぬ表情出会った二人、
実は珠生はメイヤー・ロキタンスキー・クスター・ハウザー症候群、MRKHという
膣欠損症ということで夫婦生活が不可能であったということ、精力のはけくちすら
なく身悶えしていた貞之助


 二人が結婚して三ヶ月ほどして戦地から帰還した当主の妻、由良の甥の泰輔
、由良の縁で蓮池家に引き取られて重宝がられていたが、・・・・・珠生の従姉妹
の幾代と女中のお杉と実は懇ろな関係であった。

 三年前の失踪はすべて珠生と貞之助の共謀に発していた、というが。「貞之助
はどうしても消える必要があった、しかも消え方が神秘的であるほど効果的であ
る」、・・・その「消える理由」は私の見るところ、提示されていない。

 泰輔はなぜか珠生と貞之助の計画を知ってしまった。消失の計画を。それを
上手く利用して珠生の10万円を奪おうと考えた、そこで、おこもり堂で泰輔は貞
之助を殺害した。あわよくば貞之助の後釜にすわろうとした。

 泰輔は幾台の計画をしり、また珠生が再婚に異を唱えることを心配し、三年後
のその日、『二度と帰らぬ』という書き置きを祝詞の折本に自分の出血で、あたか
も鴉の血であるかのように装った。幾代が泰輔が崖下に隠したスーツケースを
持ち出したことで罪業が露見することを危惧し、幾代を殺そうとした。それを架空
の貞之助に転嫁しようと謀った。幾代を崖から突き落とそうとした泰輔は幾代が
身を避けたため、自らがけから転落し、死んだ。


 、・・・・・だがこれでは珠生と貞之助の「人間消失」の動機は不明確である。ここ
で膣欠損症を考えても、・・・はて?である。「三年間は帰らない」、なぜ三年間かと
いう理由は紋太夫の寿命から、との説明はある、でもなぜ三年間失踪の最初の
もっとも重要な理由がわからない。


  改めていえば「鴉」は岡山を舞台とした最初の短編(やや長いが)であり、読者
の興味を引き止める設定、ストーリーはなかなか見事だ。ここでも泰輔、貞之助
が「区別がつきにくい」という対には陳腐化した手法が登場している。消失自体
の動機はよくわからない。

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